まちづくりと一体化・・富山市の路面電車

富山県富山市は、モータリゼーションの普及による中心市街地の拡散化(ドーナツ化現象)や少子高齢化に対応するため、かねてより基本政策として公共交通を整備・活性化させて“コンパクトな街づくり”(小回りが効き利便性に富んだ高齢者等にとっても暮らしやすい街づくり)を推進してきた。その先駆けとなった同市の事業が、2006(平成18)年4月29日に開業した富山ライトレール・富山港線(富山駅北~岩瀬浜間7.6㎞)への本格的LRTの導入であった。
 その1ヵ月ほど後に富山市は、かつて同市の中心市街地を環状運転していた、高度成長期の1970年代にモータリゼーションの伸展と道路整備の煽りを受けて一部路線が廃止(1973(昭和48)年)され“U字”運転の形で運行が続けられていた富山地方鉄道富山市内軌道線を、再び環状運転へ復活させる計画を発表していた。その計画をこのほど実現させたのが、同市内軌道線の環状運転再開を目的に2009(平成21)年12月23日に開業した、総工費約30億円をかけた「富山都心線」(丸の内交差点~西町交差点間940m、愛称「セントラム」)であった。

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                            (△ 富山都心線・セントラム)
 36年ぶりに環状運転を復活させた富山都心線は、市街地中心部の活性化を目的に上下分離方式(軌道関連設備および車両を市が保有、運行管理は富山地方鉄道が担当)で建設され、既存の富山市内軌道線のU字部分の両端間(丸の内~西町間)に3ヵ所の電停を新設(国際会議場前、大手モール、グランドプラザ前)して単線で結ぶ、JR富山駅前を起点に反時計回りに一周する一方向運転(所要20分)の路線である。
画像 ちなみに環状運行は、富山駅前発9時00分~19時30分の間は10分間隔、それ以外の時間帯は20分間隔、平日79本・土休祝日80本の運行である。運賃は、既存市内軌道線と共通の200円(子供100円)均一制で、丸の内または西町で既存系統に乗り継ぐ場合には乗継割引運賃が適用される。

富山県は現在、一世帯当たりのマイカー保有台数が1.72台(2009年4月)と全国で2位(1位は福井県の1.75台)のマイカー王国で、自動車の使用に過度に依存した交通体系にある。一方で、富山市の人口密度はこの30年の間に進んだ生活圏の郊外化で3分の2に減少し、全国で最も低密度の人口構成にある市街地となっている。
 さかのぼる今から4年ほど前の、富山ライトレールが開業した2006年当時からモータリゼーションの普及が全国的にも高い水準にあった富山市は、市街地中心部の拡散化が進んだことで県庁所在地の人口密度としては全国の最低水準にあった。このままでは、中心市街地の空洞化による衰退が一層進み、すでに迎えつつあった少子高齢化による人口減少に伴うコスト高な都市構造に転じてしまうのではとの懸念が富山市にはあった。
 こうした状況に鑑み富山市は、人口薄となった市街地の中心部に再び人を呼び戻して活性化を推進するにあたり、コンパクトシティ化と公共交通システムの質の充実が必要との認識を強めていた。その実現化を目指して富山市は、先ず地平を走るJR北陸本線によって南北に分断された形になっている同市の現状打開が必要と考え、北陸新幹線・在来線の高架構造化が街の一体化に不可欠との結論を得ていた。
 そうした富山市の思いを初めて具現化させたのが、規模は小さいながらも市街地の活性化と都市公共交通の再編を目的に、富山市が挑んだLRT(富山ライトレール)の導入であった。この富山ライトレールを開業させたことは、都市交通の再編に対して一つの実例を示したモデル的存在として当時、他県の都市部活性化対策の在り方に与えた影響は大きく、将来の都市公共交通の方向性に先鞭をつけたといえよう。

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                           (△ 富山ライトレール・富山駅北駅)
近代に台頭したクルマ社会、その影響の下で進む市街地等の衰退は普遍の様相にあるが、そこに再び活性化を呼び戻すべく手段として世界的に復権を果たしているのが、かつて都市公共交通の中枢に位置していた路面電車交通である。現在では、従来の路面電車に代わって一段と高性能・高機能化が図られた、新しい路面交通機関としてのLRTが都市活性化復活への主役に在る。すなわち、「街の装置」としてその機能を取り入れるもので、アメリカやカナダでは運賃フリー(無賃)の導入により“水平のエレベーター”とも呼ばれている。
 世界的な傾向ではあるが、近年のクルマ社会において市民の足を市街中心部に向けさせる移動手段の構築に関し日本でも、公共交通サービスの質の向上と利便性の促進等が課題となっている。その現れが路面電車の復活であって、特にLRT導入への注目度が高まりを見せており、各地の都市部で導入計画が進みつつある。
 しかしながら、事業採算性の確保、沿線開発との連携、自動車交通との整合、さらには近年の地方財政の収縮等々の諸課題や問題が絡んで、LRT導入計画自体の具体化案は示されはしているものの、本格的な復活対策や新規導入にはほど遠いというのが現状であるようだ。
 蛇足ではあるが、ちなみにLRT(Light Rail Transit)とは、従来の路面電車の機能を高度化させて利用環境をより一層向上させ、既存の路面電車とは区別した洗練性を持って登場した都市交通システムで、新しい都市交通の概念を示す中量輸送交通機関を指す。具体的には、車両に対しては低床化やユニバーサルデザインの採用および市街地周辺の景観にマッチさせた外観の構成を図り、運行に関しては道路面走行に限らず地下や高架または都市間鉄道への乗り入れ等多様な空間活用を図るなど、都市交通と市民の共生環境をも整えた高度な公共交通サービスの提供を可能とする諸工夫が施された路面交通システムである。
 もともとLRTは、ドイツの進んだ路面電車技術をベースに開発された都市交通システムで、自動車を持てない交通弱者の救済や都心部への自動車流入抑制の施策として、1978(昭和53)年にカナダのエドモントンにおいて初めて登場したのである。
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日本初の本格的LRT路線として、2006年4月に開業した富山ライトレール・富山港線の現在はJR富山駅の北口止まりとなっており、富山市の中心市街地が広がる南口へ出るには、同市を南北に分断している形となっている地平のJR北陸本線を地下連絡通路で越えなければならない不便を囲っている。 
 この富山市の南北一体化は、延伸される北陸新幹線とともに実施される在来線(北陸本線)の高架化が成る4~5年後(北陸新幹線の延伸は2014年度末予定)まで待たなければならない。計画では、富山ライトレール・富山港線と富山地方鉄道富山市内軌道線との地平相互結節を図って南北相互間直通運転を行うことで、中心市街地への南北間交通軸を構築する予定となっている。
 日本の地方都市部では、現在もその勢いを持続しているモータリゼーションの渦中にあって、中心市街地の空洞・郊外化や人口等の拡散が進み、市街地の活気を失っているところが多い。そのため、地方の行政上からも都市部の再構築等は当該自治体にとっては大きな課題となっており、今、都市部活性化の先鋭的施策としていくつかの都市部(東京豊島区、大阪堺市、栃木県宇都宮市、島根県松江市等)で街づくりと一体化を図ったLRT路線の導入計画が進みつつある。
 ただ、LRTの導入が街づくりと一体化して機能するか否かの鍵は、街づくりとの一体化を目的に日本初のLRT導入を図った富山市にあっても、当初は行政レベルにおいても市民レベルにおいても都市交通のあり方やLRT導入についての理解は乏しかったように、国の支援はもとよりだが、先ずは市民と地方自治体相互間の街づくりへの理解と息の合った相互協力体制の確立を図ることにあるのではないだろうか。  (終)

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