鉄道コンテナ輸送に寄せて

日、日本の鉄道貨物輸送の主体を占めるコンテナ輸送は、1959(昭和34)年11月5日に日本初のコンテナ列車〈たから〉号の運転を開始して以来、2009(平成21)年11月で半世紀が経った。その節目の年を迎えたJR貨物は、「鉄道コンテナ輸送50年」の記念イベントを全国各地で展開し、50年にわたって鉄道コンテナ輸送が果たしてきた役割や鉄道貨物輸送の重要性などを広くアピールした。

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 この半世紀の間、鉄道が運んだ物資の総量は約6億㌧(10トントラック6000万台分)に及び、高効率で環境にやさしい輸送機関としての鉄道貨物輸送は、今や国民の生活や環境にとって必要不可欠の輸送手段となっている。

本の鉄道コンテナ輸送は、海外のコンテナ輸送の多くが港湾を起終点として内陸との相互間を輸出入に係わる海上コンテナにより大量輸送しているのに対し、海上コンテナの輸送はあるものの、輸送の大部分が日本独自の規格である12フィート・5㌧コンテナにより全国137の拠点駅を結んだ、国内地域間貨物の輸送が主である。現在(2009年)、JR貨物のコンテナ輸送専用列車(フレートライナー)は毎日440本が運転され、その運転距離は地球5周分に相当する20万㎞に及び、中長距離圏(300~1000㎞)の輸送において鉄道コンテナ輸送の優位性と存在感を示している。
 そもそも鉄道コンテナ輸送の始まりは、昭和30年代以降における日本の高度経済成長期とその期を一にする。画像それまでの主体であった車扱輸送(一般貨車に貨物を混載する)は、鉄道の大量輸送を最大限に活用するには適していたものの、反面伸展を続けるトラック輸送に比べ、ヤード系輸送のため輸送日数がかかり定時性に欠けること、トラック~貨車間の貨物の積み換えに伴う輸送時間の浪費や経費の増加、さらには貨物の積み換えに伴う荷傷みを考慮した荷造・包装等の重装化等々、輸送に係わるデメリットが顕在化していた。そのため、戸口から戸口へ一元輸送するトラックに対し、鉄道貨物輸送の劣勢が目立つようになっていた。さらに、道路網の整備やトラックの性能向上が図られていくにつれ、戦後復興に大きな役割を果たし、かつ独占的に貨物輸送を任されてきた鉄道の優位性が大きく揺らぎ始めていたのである。
 そこで、トラック輸送に匹敵すべく考案されたのが、鉄道による輸送領域を拡大して輸送の近代化・合理化を図った、貨物の積み換えを必要とせずに戸口から戸口までそのまま運べるコンテナを使った輸送方式であった。それが、汐留(東京)~梅田(大阪)間を貨車の解結することなく直行運転され、本格的な鉄道コンテナ輸送の先駆けとなった、前述の〈たから〉号コンテナ貨物列車であった。ちなみに愛称の「たから」は、広く一般から公募されたもので、“超デラックスな列車でお客様の大切な「たから」を積んで走る列車”という意味から選ばれたという。

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 しかし、意気込み高くスタートしたコンテナ輸送ではあったが、トラックはもとより車扱輸送に対しても運賃が割高だったことから、一時は“たから”ではなく“から(空)”号ではないかとまで揶揄されるほどに、コンテナの利用は漸減していった。
 こうした状態に対し、その後に運賃の引き下げや懸命な貨物誘致活動、利用拡大を図った冷蔵・通風・タンク・ホッパー等の特殊コンテナを登場させるなどの努力により漸減状態の改善につながりはしたが、ほとんどの輸送区間でコンテナ列車(専用)を仕立てて運転するに十分な貨物量の確保には至らなかった。そして、その対応策としてコンテナ貨車を車扱列車等に併結して輸送する方法が取られていたため、コンテナ本来の特質である戸口間一貫輸送というスピード化を活かしきれない状態が続いていた。
 そうした中で当時の国鉄は、名神高速道路の開通(1963(昭和38)年)に続き、1969(昭和44)年には東名高速道路の開業も確実となった下で、日本の産業・経済の基幹ベルト地帯である東海道は国鉄にとっても輸送のドル箱幹線であるため、東海道筋における鉄道輸送が自動車輸送に取って代わられる懸念を払拭する意味で、鉄道コンテナ輸送の質を抜本的に改善する必要性に迫られていた。
 その結果、国鉄が採った対応策が、東名・名神高速道路全通1ヵ月前に決断(1969年4月)した「フレートライナー方式」であった。それは、〈たから〉号と同様のコンテナ輸送専用の貨物列車を増発するとともに、それまでは輸送競争のライバル関係にあったトラック業界と鉄道とが協同して一貫輸送を行おうというものであった。これにより、鉄道とトラックの協同の下で鉄道の得意分野である中長距離輸送を活用し、拠点間直行輸送による複合一貫輸送を以てコンテナ輸送のスピードアップと定時性を図ったのである。
 東京~大阪間5往復10本の設定で始まったコンテナ専用フレートライナーの運転は、その後の高度成長の持続や国鉄の懸命な荷主誘致活動を背景に、コンテナ需要の伸びと並行してその運転本数を急速に伸ばし、ピーク時の1975(昭和50)年には1日120本の運転に及んでいた。ちなみにフレートライナー方式とは、イギリス国鉄が鉄道輸送の立て直しを図って登場させた拠点間直行輸送方式である。始端部(集荷)と末端部(配達)を自動車輸送し、拠点間(都市間等)を鉄道で輸送する、複合一貫輸送全般を指す。現在、JR貨物においては、物資別専用列車(車扱)以外の全てのコンテナ輸送はフレートライナー列車として運転されており、JR貨物営業の根本となっている。

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かしながら、高度成長を続けていた日本の経済も、1973(昭和48)年10月に起きたオイルショックで省エネが国家的課題となり、操業短縮等の影響が全産業に及び、日常生活にまで“もの不足”を引き起こした。それまで地道に輸送量を伸ばしてきた鉄道コンテナ輸送は、国鉄末期の混乱期の影響(順法闘争や繰り返される運賃値上げ等)も加わって減少へと転じることとなるが、一方でモータリゼーションの台頭により鉄道貨物輸送の非効率性が国鉄経営悪化への元凶の一つにもなっていた。
 その後、鉄道貨物輸送の非効率性を排除するため、ヤード系輸送方式の廃止(集結輸送から直行輸送方式へ)、貨物取扱駅の集約化(800駅から460駅へ削減)、拠点駅化を図った貨物取扱(物資別取扱)、直行系輸送化(拠点間輸送)、人事配置の再編(貨物列車の一人乗務、車掌の廃止等)など、貨物営業の刷新が図られた。しかし、国鉄経営を圧迫し続ける貨物営業の不採算性は回復に至らず、その他諸々の事情も絡んで経営破綻に瀕していた国鉄はついに115年の歴史に幕を閉じ、分割・民営化の新事業体(6旅客鉄道会社と1貨物鉄道会社)へ移行した。そして、1987(昭和62)年4月にJR貨物は、日本全国の鉄道貨物を一元輸送する唯一の貨物鉄道会社として発足したのである。この時、JR貨物が国鉄から承継したのは、第二種鉄道事業者として営業キロ約1万㎞(旅客鉄道会社の線路借用)と368の駅であった。
 こうして旧国鉄の貨物輸送を引き継いだJR貨物は、国鉄がその末期に失った顧客の信頼を回復すべくモータリゼーションの渦中にあって、高能率・高容積コンテナの導入、高速コンテナ貨車および新型高性能機関車の開発・導入、長大編成化による輸送力増強、効率・迅速化を図ったE&S荷役取扱駅(入換を要しない着発線荷役)の拡大、日本初の貨物電車「スーパーレールカーゴ」(最高速度130km/h)の開発、ITシステムの積極導入等々、現在に至るまで諸施策を講じて顧客の要望に応えてきた。

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 その中でも、コンテナ輸送を劇的に進化させたのがITシステムの導入であった。コンテナ輸送当初の、コンテナ自体の持つ複雑な取扱・運用に関わる関係者間や拠点間における情報交換は、専ら電話やテレタイプに依存した非能率・非効率的な手段に拠っていた。それを大幅に改善・前進させた、コンテナの予約・輸送・管理・文書作成等の情報交換機能を持ったITシステム(初代)が誕生したのは、1976(昭和51)年になってからであった。
 ITシステム導入から30年余り経った現在では、情報交換等の機能に止まらず、コンテナ輸送ルートの自動制御、IDタグとGPSを組み合わせた荷役作業の自動制御、トラックの進出入自動誘導等の諸機能を有した「IT-FRENS」が稼働しており、JR貨物のコンテナ輸送業務はほとんどの分野において総合的に自動化(IT化)され、さらなる鉄道コンテナ輸送の躍進に期待が持たれている。

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年誕生した新政府は、地球温暖化防止に向け“1990年比25%減”の温室効果ガス排出量の削減という、高いハードルの中期目標を国際的に掲げた。そうした情勢にあって、CO排出量がトラック輸送の7分の1と少ない鉄道輸送に対しては、運輸部門の中でも高い期待が寄せられている。然るに、今後も鉄道コンテナ輸送が果たして行くべき役割には、より一層の期待と責務が懸けられているといえよう。
 しかしながら、サブプライムローン問題に端を発したアメリカ経済不況の煽りで、世界中に拡がった経済不安は日本の経済にも一昨年頃から大きな影響を及ぼし、企業等の生産調整や大幅減産、企業倒産体制の連鎖化等が連日の如く綿々と続いた。今日に至るも、その不安状況の回復予測は不透明で、JR貨物においても2009年度のコンテナ輸送量は大幅に落ち込み、長い間保ってきた黒字基調は8期ぶりの赤字に転落してしまった。
 環境保全の上から、最も期待がかけられている輸送機関のJR貨物。その主体を成す、輸送の環境や技術が格段に近代化された今日の鉄道コンテナ輸送にとって、長引く経済不況とはいえ鉄道へのモーダルシフトが国を挙げて推進されているこの時期に、貨物の輸送量が減少の傾向にあるのは何とも皮肉なことといえまいか…。  (終:JRガゼット参照)

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