駅スペース活用事業

客の乗降(一部で貨物)を扱う場所という用途に集約されて使われてきた少し前までの鉄道駅で、商業施設といえば、売店や立ち食いそば・うどん店ぐらいしか見当たらなかった。今でこそ、駅と一体となった駅ビルや私鉄ターミナルの百貨店などの商業施設は馴染みだが、ただ駅内にありながら機構的・管理的には駅とは隔てられた関係にあり、その意味では“駅前”的な存在といえる。
 昔から駅前は、商業開発の一等地であるとされ、従来からさまざまな商業活動が駅前をはじめその周辺地域を軸に営まれてきた。俗に、駅前商店街と称されてきた、商業施設の展開であった。
画像 ところが近年、駅を取り巻く環境が大きく変化している。JRをはじめとする各鉄道会社では、モータリゼーションの伸展とともに急速に進む少子高齢化や、大手私鉄などでは沿線開発の成熟化などもあって、鉄道利用の減少化が進んでいる昨今の輸送環境から将来の鉄道収入に大きな伸びは望めないとして、鉄道輸送以外の収入源を求めて新たな経営資源の模索・発掘を行ってきた。
 そこで、鉄道における人口動勢に関して、鉄道で最も人が集まる場所はと改めて見つめ直してところ、それは駅前でもなく、駅周辺でもない、乗客が日々出入りして通過するだけと思っていた“駅”そのものだったという、何とも灯台もと暗しというべき事実に気付いたのだ。すなわち、駅の中こそが商業活動の最高立地として最大の経営資源と捉えた、駅内のスペースを商業施設として活用する従来の駅を大幅に発想転換させた事業展開の試みであった。

れまでの鉄道事業者は、概して、駅は乗客の乗降が最優先であるとして、それを阻害するような施設の設置を安全上から避けてきた。駅の片隅に寄ったうどん・そば店、小規模の駅売店などが、もともと商売っ気がなかった証ともいえよう。
 しかし、高度経済成長後の社会生活の変貌(クルマ主導の交通事情)の中で、鉄道が従前から推し進めてきた合理化・効率化対策(自動化や省力化)によって新しく捻出されていた駅内スペース(出改札窓口の自動化、駅係員事務室などの縮小・撤去)の存在が、商業施設の事業展開を後押しするかたちとなった。ここに、駅内には街と変わらない商業施設が進出して「エキナカ(駅ナカ)」という新語も生まれ、今では「デパ地下」などと並んで日常的な存在となっている。ちなみに駅の構内に市中の一般店舗が設置された最初のケースは、当時の阪急電鉄(現・阪急阪神ホールディングス)が十三駅のホームに1995(平成7)年に開業したコンビニ「アズナス」であった。
 今、JR東日本は、展開中の「ステーションルネッサンス」(2001年度スタートの中期経営計画「ニューフロンティア21」の中で打ち出された)の基本コンセプトの中で乗客が移動・交流する駅空間を最大の経営資源と捉えることで、駅の機能を100%引き出す戦略を企業経営の重点部分に位置づけている。すなわち、駅を利用する人たちを「旅客」という視点だけでなく、「顧客」あるいは「消費者」という視点で見つめ直し、駅を単なる“通過点”から人々が集い楽しむ“快適空間”へと大きく変貌させることをステーションルネッサンスは目的としているのだ。その現れが、商業施設“エキュート”に代表されるエキナカと称する駅空間活用の事業展開である。

画像

キナカは今、飲食店、CD・DVDショップ、雑貨などに止まらず、ファッションなどの専門店も現れるなどさまざまな業種の店舗出店へ広がりを見せ、利用者に即したプライベートタイムを過ごしてもらえる商業ゾーン形成の場となっている。
 さらには、駅内の既存スペース活用の他に、線路上の空間に人工地盤を建設して新たに商業空間を造り出すといった、商業施設創出の傾向も高まっている。しかも、従来からの主流であったテナント貸しに替わって、鉄道事業者自らが駅内の商業施設を本格ビジネスとして展開するという、フランチャイズ方式も含めた直営化が目立ってきたのも昨今の特徴だ。
 そこにはやはり、鉄道側の管理上の理由もあった。すなわち、鉄道側の事情から将来に駅の改築・再開発等が必要となる可能性も考えられ、その場合には従来の商業空間(テナント貸し)では諸般の制約を受けて自由度(改築等に対する)が失われたり、移転補償面も懸念されるという状況に至らないとも限らないからだ。

画像

 いずれにせよエキナカの構成上において、当然ながら駅空間の利用であるから鉄道事業者の独占色が濃い商業空間という見方ができ、そこに新たな問題(軋轢)も生じ始めた。
 今盛りのエキナカには、大勢の利用者が集中し、しかもエキナカで事足りて顧客の満足が完結してしまい、駅周辺や市街地域の商店街などの既存店舗に影響(利用者減)が出ているのだ。そのことが、従来から周辺商店街が駅を、駅が周辺商店街を共に活性化させてきたという相互補完的な考えがある中で、地域と鉄道との間に摩擦を生んでいるケースである。
 また、駅はこれまで公共的要素の極めて高い施設として税金面で優遇(固定資産税が3分の1程度に抑えられている)されもしてきた。しかし、商業施設としては周辺市街地と何ら変わらない、また、それを凌ぐ商業施設へと変化してきた駅(エキナカ)に対して国は、従来の公共性に軸をおいた考えに関わらず課税を強化する方針を示したのだ。

画像

うした駅空間の新たな展開の中で、さまざまな関連問題も発生してはいるが、これまではあまり鉄道を日常的に利用していなかった人も、駅へ足を運んでみようという来駅者が増えているという。ともあれ、従来の駅にはなかった新たな可能性を切り拓くエキナカビジネスは、今後もより深度化が図られていくことに間違はいなく、駅の果たす役割はさらに拡げられていくことだろう。
 勿論、乗客の安全確保を第一義的に考えるのは当たり前のことだが、列車の乗降という駅の根源的な機能向上が最優先された上で、エキナカビジネスが展開されていくべきであることは論を待たない。今では、駅スペース活用事業として定着した感のあるエキナカビジネスは、広く開放的な移動空間の提供や、明るい照明・BGMなどによる環境の演出といった、街のたたずまいを融合させた新しい活力を駅内に生み出すことで、従来の“駅”のイメージを大きく変貌させている。 (終)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック