|
・・今ではとんと聞かなくなったが、「テルファー」(またはテルファ:telpher)という言葉をご存知だろうか。あまり聞き覚えのない言葉であろうと思われるが、鉄道用語辞典によればテルファーとは、荷物運搬車をワイヤーロープで吊り上げ線路上を横断して運搬する設備、とある。 現在の鉄道の現場からはすっかり姿を消してしまったが、一般に旅客設備とは一線を画される荷物・貨物関係の設備であっただけに、関心を引かれなかったことは確かだ。今でも、港湾設備として荷揚げなどの運搬に使われているが、鉄道からは30年以上も前に見られなくなった設備である。 しかし、年輩の方なら、懐かしい鉄道の情景として、記憶のどこかにしまい込まれているかも知れない。今は現存しない、鉄道における荷物運搬設備の一つであったテルファーを、ちょっと懐古してみたい。 ・・荷物は、言わずもがなではあるが、旅客と違って自ら移動することができない。人手によってホームに運ばれ、列車に積み込んでやらなければならない。荷物が少量なら人の手で運ぶこともできるが、大量ともなればそうはいかない。 その上、線路を横断しなければならないとなれば、安全上や迅速さからいって当然機械に頼ることになる。 その駅で扱う発送・到着荷物を運搬するテルファーは、1980年代(昭和50年代後半)まで国鉄(当時)のあちこちの駅に設備されていて、駅の活気ある情景を演出していた一つでもあった。 ・・鉄道の荷物輸送(手荷物・小荷物)が盛んであった1950年代後半(昭和30年代)、列車で輸送する郵便物や荷物を積み込んだ運搬車(発送・到着荷物を運ぶときに使用する台車)をホーム間で移動させるには、構内通路(踏切)を使った線路横断も可能だが、運搬車の荷物が多かったり列車本数の多い駅では、安全性も含めて人力ではとても仕事にならない。そこで設けられたのが、運搬車を吊り上げて線路の上方を移動させる機械設備であった。 これがクレーンにも似たテルファーで、空中を移動していくため見る側からすればスリルものであった。 運搬上の安全確保を図って、空中の移動する部分全体を壁面等で覆ったものもあったが、なかには移動用レールが剥き出しで、“空飛ぶ運搬車”をホーム上から直に見られる簡易なものもあった。また、運搬車をホーム上に昇降させる部分には、エレベーターのように囲いを設けたものもあったが、簡易なテルファーでは囲いすらなく昇降の状況が丸見えで、大いに興味を誘われたものだ。こうした情景が見られた駅は、地平駅に限られていた。 停車中の客車の屋根上方を、独特の機械音を響かせて移動して行く荷物満載の運搬車を、ハラハラしながら見上げていた頃を懐かしく思い出す。テルファーのあった駅には、どことなく活力を感じもした。 ・・鉄道による荷物輸送は、当時国鉄(昭和40年代以降)の度重なる順法闘争やストライキ、運賃値上げなどによって、輸送に必要な定時性や安定性などの面で顧客への信頼度を大きく失墜させた。と同時に、一方では、モータリゼーションの進展を機に自動車による戸口から戸口への宅配便が急進したことで、積み換えや継送を要する鉄道の荷物輸送は一気にその需要を下げ、1980年代後半頃を境に国鉄をはじめ民鉄などの鉄道による荷物輸送は相次いで廃止に至って、消えていった。 そして、荷物輸送の裏方を担って活躍してきたテルファーも無用の長物と化し、相次いで解体・撤去の憂き目を見るに至り、駅から消えていった。 ・・鉄道荷物輸送におけるシンボルでもあったテルファー、今ではその姿さえなく、鉄道の荷物輸送華やかなりし頃の面影を探し偲ぶことは皆無に等しくなってしまった。 ただ、旅客輸送とともに、一方の鉄道輸送の柱だった荷物輸送を支えて機能してきたテルファーが、たとえモータリゼーションの犠牲となっていずれは近代化の波に消える運命であったにせよ、鉄道の産業遺構として残されもせずに消えてしまったことに無念さを覚えるとともに、“懐古”としてのみ存在しうるのは誠に惜しい限りである。 (終) |
| << 前記事(2008/05/17) | トップへ | 後記事(2008/05/28)>> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|
| << 前記事(2008/05/17) | トップへ | 後記事(2008/05/28)>> |