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「分水嶺を越える列車」…絵になるフレーズだ。山岳トンネルの大部分はトンネル内の途中に頂点を持ち、双方の出入口に向かって下る形を成している。秩父盆地へ下る正丸峠、その直下をトンネルで抜ける西武秩父線の正丸トンネルも、サミットをそうして越える。 標高差こそ337b程度の峠ではあるが、鉄道路線はその前後にわたって25‰の急勾配と急曲線が連なる山岳路線を形成している。 今では、過去のものとなってしまった西武鉄道の貨物輸送。長い黒い貨車群を従えたE851形電気機関車の赤いボディが、濃い緑の山並みに一段と映えて、正丸峠を毎日のように越えていた。 雪の降る回数も量も少ないが、337bの低い標高でも峠を境に秩父盆地側と反対側では、極端に天気を分けることもある。秩父側へ正丸トンネルを抜け出た途端、目の前が一挙に銀世界ということもしばしば。赤いボディと雪、コントラストはそこでも一段と映えた。 峠の周囲には集落がいくつもたたずむが、周辺は自然や野生が豊富だ。山間を進む線路脇には、野ザルの群れや野ウサギ、狐、狸などが頻繁に出没する。ときには、鹿が列車にぶつかることもあった。 以前はこの峠を、2車線ほどもない狭く曲がりくねった国道だけを頼りに、難儀をしながら越えていた。今では、道幅も広く改修され、峠の下にトンネルを穿って一気に抜けてしまう。 春の桜、夏は新緑に川遊び、秋にかけてはハイキング、冬は祭りにと、人々の生活と自然が渾然一体を為す中で、この上なく調和してこの峠は在る。 一筋のレールに沿って、異郷の風光に出会うのも、息吹に触れるのも、かつて赤い電機が越えていた峠を一つ越えてから… −2008.5− |
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